就活をきっかけに再燃した起業への想い。清華大学で起業準備に取り掛かる。

加藤さん3

 

三澤公希さん(23歳)

東北大学工学部を卒業後、2014年9月清華大学大学院に入学。専攻は環境科学。2015年4月には清華大学の起業支援制度であるインキュベーションセンターに合格し、現在は研究と起業の準備にとりかかる。写真右が三澤さん。

清華大学進学を考えたきっかけ

三澤さんは工学部だったので、大学院に進学してから就職する方が一般的だ。しかし、同じ部活動の先輩から「学部生で就職活動をして、会社の事を知っておくのも良いと思うよ。」とアドバイスを受けた。そこで、学部生の時に就職活動を始めた。その先輩は総合商社を志望しており、その話がおもしろかったので総合商社を第一志望としてエントリーした。

しかし、結果は不合格。元々、どうしても総合商社に今入りたいと思っていたわけではなかった。ただ、就職活動中にこんな違和感を感じた。

「就職しても決められた箱に入れられてしまうような気がする。」

そして、これをきっかけに「自分は本当は何をしたいのか」を本気で考え始めた。

三澤さん:学部3年生くらいまでは部活に夢中になり、それ以外のことは頭の中にありませんでした。そんな中で、就職活動をした際に、徹底的に部活から離れて自分を見つめ直す時間がありました。この時に、将来したいことは高校時代からの夢、”起業”であるということを再確認しました。ただ頭の中は、この段階では就職7割、起業3割といった感じでした。ですが、徐々に人、チャンスに恵まれこの3割が5,6,7割と上がっていった感じです。人とは、今のチームメンバーです。彼らに触発されるものがかなりありました。

ちなみにチームメンバーとは、今一緒に起業の準備をしている日本のメンバーである。留学も同時に考えた。初めはアメリカを留学先として探していたが、三澤さんのお父さんから、清華大学にインキュベーションセンターという起業を支援する制度があると聞き、志望を清華大学に切り替えた。中国で成功した富裕層は清華大学の出身者が多く、清華大学生への起業支援を積極的に行っているという。また、人口が多くビジネス規模が大きそうな中国という国自体にも魅力を感じた。

”起業”が夢となった、その原体験とは

三澤さんは高校1年生の時、ピアノのコンサートで3週間ほど渡米した。その時のホームファザーに大きく影響を受けた。彼は、アメリカ、シンガポール、香港などでレストランチェーンを展開する日本人シェフであり、実業家でもある人物だった。その人の、好きな事をするためにどこまでも突き進んでいく姿勢に憧れ、いつかそのような人になりたいとずっと思っていた。ホームステイ中は、食事以外にも現地の様々な場所を案内してもらったりと、一緒に過ごす時間が多かった。その時に彼から「常識を捨てなさい。自由に考えろ。人の輪を大事にしなさい。」と常々言われた。この経験をきっかけに”起業”ということを強く意識することになった。

清華大学入学に向けて準備したこと

清華大学では、中国人以外の外国人向けの英語の授業が用意されており、三澤さんが受講するのは英語の授業。決して英語が得意ではなかったので、言語の壁を克服するにはかなり苦労をした。清華大学は、学力などの基本的な条件の他に、清華大学の教授の推薦も必要だ。自分の入学を推薦してくれる清華大学の先生とコネクションを持つ必要があるのだが、生まれも育ちも日本の三澤さんにそんなツテがあるはずもない。

持ち前の行動力で東北大学の様々な先生に助けてもらったが、もっとも協力してくれたのは、当時三澤さんが所属していた部活動の先生だった。その先生は、中国にパイプのある教授方を多数紹介してくれ、推薦を手に入れられるように取り計らってくれた。推薦を貰うために研究のイントロダクションを書いて提出し、また、偶然日本に清華大学の先生が来た時には、他の知り合いの先生の計らいで、一緒に食事をさせてもらったりした。ちなみに、その店は居酒屋・和民だった。

起業へ向けて

加藤さん2

清華大学進学後、研究の合間を縫ってインキュベーションセンターの応募準備を行った。インキュベーションセンターは、清華大学生を対象とした起業を前提とした支援制度だ。合格すると、会社登記や投資のサポートと、中国版シリコンバレーとも言える場所にオフィスの提供を受ける権利を得られる。応募にあたってはアイディアを考え、実際にチームメンバーを集めた上で面接に望む。三澤さんは、α版ではあるが既に「Langchange」というオンライン英会話サービスをリリースしており、このサービスを選考に持ち込んだ。中国ではB to Cのオンライン英会話はまだ少なく、人口が多い中国ではこれから大きく伸びるビジネスだと考えていたからだ。また、C to Cのサービスも考えているが、C to Cは世界的に見てもまだサービスの数は少ない。

チームは6人。清華大学のリビア人とフランス人と三澤さんの3人に加えて、日本にもプログラマーを含め3人いる。どうやってチームメンバーを集めたか、という私の質問に対しては「とにかく起業をしたいと言い続けた。」という。実際、プログラマーとはたまたま飲んでいた時に「起業したい。」と三澤さんが言うと「実は僕も。」という返事が返ってきて、チームに加わってもらった。そのチームの代表は、もちろん声を挙げ続けた三澤さんだ。

選考では、面接後別室に呼ばれアイディアなどについてさらに詳細に質問を受け、その日の夜には合格のメールが届いていた。この時の喜びは今でも覚えている。今はオンライン英会話に加えて、並行して3つ程別のアイディアも進めてしまおうかと考えている。少し前にハマっていたマネーの虎にあった「アイディアが実る確率は低いので、複数仕込んでおくべき」という考え方を実践しているとのことだ。ユニークだ。ちなみに、会社登記はまだ行っていないが、今後投資家から資金調達が出来次第、中国か香港で登記をする予定だ。

中国に来て成長したこと、変化を感じていること

自分のやりたいことに真正面から向き合えるようになった。日本にいる頃は「何だかんだ言っても、企業に就職するんだろうな。」と思っていた。大学時代から起業をしたいと周囲には言っていたが、「話していることに軸がない。ブレている。」「まずは研究をしっかりするべきだ。」などと、三澤さんの言動は決して肯定されているわけではなかった。しかし、清華大学では様々な価値観や経験をしている人がおり、その環境に身を投じることで、少し窮屈に感じていた日本のエスカレーター的な考え方から解き放たれた。

ビジョン、なりたい姿

「とにかく会社を大きくして、いっぱしの経営者になりたい。」その一言だけだった。憧れている人は、ホームステイでお世話になった実業家の他に、フィリピンでレストランチェーンや太陽光発電事業などを経営している人とも知り合い、目標にしている。フィリピンの経営者には、メールで経営のアドバイスをもらうこともあるほど親しくしていて、これまでの苦労されてきた話を聞く度に「自分ももっと頑張らなくては。」と思う。「とにかく小さくてもいいからやってみること。レストランでもまずは1店舗経営することで、分かってくる事がたくさんある。」というアドバイスは印象に残っている。自分がこれまで会ってきた人に大きく影響を受け、自分が動く原動力になっている。

ライフスタイル

研究以外は起業の準備を進めている。インキュベーションセンターでは、法律やITなどのコンサルティングを受けられ、事業計画を作る過程で分からないことがあれば、そこに質問に通い日々フィードバックを受けている。WEB開発言語も勉強中。とにかく全てが楽しい。息抜きには親しい友人がいるフィリピンに遊びに行くなど、これからの長い道のりを意識してか、過度に負荷をかけることなく、しかし着実に事業を進めている。

最後に

三澤さんは大学入学後、ある体育会系の部活動に熱中していました。その時は”起業”の2文字は少しの間だけ頭から離れていたわけですが、就職活動をきっかけにその気持ちが再燃しました。高校1年生の時の体験は相当に印象的だったようですね。その気持ちに正直に向き合って挑戦をした結果、今は充実した人生を生きているようです。ただ、「日本に戻ると、また前みたいに窮屈さを感じるかもしれないから、少し怖い。」という話もしていました。三澤さんには今のまま挑戦し続けて欲しいと純粋に思いました。「半年で形にする。」と起業について意気込みを語っていた三澤さん。今後も、成功までのプロセスを追っていきたいと思います。人と話すこと、接すること、行動してみること、これらの大切さがすごく伝わってくるインタビューでした。

2015年05月16日 | Posted in 留学, 起業・独立 | タグ: No Comments » 

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