博士課程再入学の経緯。社会人になってから見えたもの。

北原さん1
北原理弘さん(28)
2016年打ち上げ予定のジオスペース探査衛星(ERG)に搭載される解析装置の開発研究を行い、東北大学大学院修士課程を修了。システムエンジニア(SE)として2年間勤めたのち、東北大学大学院博士課程に再入学。現在博士課程2年生。
<略歴>

  • 25歳:東北大学大学院修士課程 修了
  • 25〜27歳:会社員
  • 27歳:東北大学大学院博士課程 入学
  • 修士課程への進学はあまり悩まなかったという。「大半の理系学生と同様に研究をかじってみたい、というようなもやっとした選択だった。」その後修士学生として研究を行い、修了後の進路について考えるようになった。就職活動の結果、興味のある会社から内定をもらったが、その一方で進学の道も残しており、援助プログラムが得られる準備も行っていた。この進学か就職かの選択は非常に悩んだ。「進学手続きのギリギリまでずっと悩んでいた。博士課程の先輩にも何人も相談に行った。」

    最終的に就職を選択することになるのだが、そこにはどういった要因、考えがあったのか。「博士課程の先輩たちが苦労する姿を数多く見てきたので、自分が覚悟のないまま中途半端な気持ちで進学してしまうこと恐れた。内定先の会社にも魅力を感じており、就職することを決断した。」

    会社員となり、営業研修も経験し、SEとして企業向けのクラウド型のサイトの開発を行った。チーム全員で全ての行程を行うやり方やチームミーティングのファシリテートを任される経験から、充実した生活を行っていた。そんな生活も1年が経った時、たまたま自分が研究していた分野の学会に訪れ、講演を聞く機会があった。そこで、冒頭に記したことを感じたそうだ。

    自分がやっていた研究について進める価値があると自負していたこともあり、進路選択時にはもやもやしていた博士課程での展望が見えたそうだ。そのときの生活は充実していたが、会社の業態から将来の転職も考えており、その決断が今だと感じたという。今入り直せば、ERG衛星の打ち上げに学生のうちに携わることができるということも後押しとなり、元指導教員に相談し、再入学を決意した。

    北原さんは2015年現在、博士課程2年生として日々研究に取り組んでいる。「会社員を経験したことで培ったノウハウを研究に生かしたい。グループでの研究の進め方、共有の仕方等、変えていきたいことはたくさんある。」と話し、就職したことが必ずしも回り道ではなかったという。しかし、社会人を経由したことで東北大学にあるいくつかの博士学生への支援プログラムが受けられなかったということもあるようだ。

    今の制度では博士への進学を積極的に人に勧めることはできないという。「現状のシステムは科学者を養成しているようには思えない。進学した人と編入や再入学した人への待遇の差や、博士学生と働いている人との収入の差が大きいので、魅力に感じない人も多いと思う。」博士課程修了後のポストが不足し、いわゆるポスドクが世にあふれていることにも触れ、現在のシステムについてそう述べた。それでも、国際学会で、最新の研究に触れられるなど、この道を選んだからこその良さも感じているという。

    北原さんが最終的な自分の進路の決断を下す上で最も根底にあったものは「自分が楽しい方へ」ということだったそうだ。博士再入学の際、自分にとって「楽しい、面白いこと」は「わからないことがわかるようになること」だと考え、それがサイエンスだったという。

    最後に

    北原さんの話を聞き、「楽しい方へ」という言葉が筆者の印象に残った。必ずしも楽しいことが楽なことではなく、苦労が多いという印象をうけたが、苦労をしながらも、「わからないことがわかる」理学の面白さに向かっているその姿は生き生きして見えた。

    研究内容

    2016年打ち上げ予定のERG衛星に搭載される新しい観測装置に関する研究を行っている。この衛星により、地球の周りに高エネルギーの粒子が集まっている放射線帯の解明を目指す。この研究は宇宙飛行士の船外活動の安全確保、人工衛星の安定的運用、オーロラのメカニズム解明などにつながると期待される。
    北原さんの研究紹介ページ

    2015年11月10日 | Posted in 研究 | | No Comments » 

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